今回は、過去にどのような遭難が起こったのかまとめてみようと思います。
遭難体験が記された本やブログなども紹介していきます。
山岳遭難の事故まとめ
日本で起こった主な山岳遭難事故をまとめてみます。
発生日 | 場所 | 死者数 | 原因 | |
八甲田雪中行軍遭難事件 | 1902年1月24日 | 八甲田山 | 199人 | 天候不順、認識不足など |
木曽駒ヶ岳大量遭難事故 | 1913年8月26日 | 木曽駒ヶ岳 | 11人 | 悪天候 |
剱沢小屋雪崩事故 | 1930年1月9日 | 黒部川上流 | 6人 | 雪崩 |
鉄道省山岳部遭難事故 | 1934年1月21日 | 浅間山 | 6人 | 雪崩 |
富士山大量遭難事故(1954年) | 1954年11月28日 | 富士山 | 15人 | 雪崩 |
ナイロンザイル事件 | 1955年1月2日 | 前穂高岳東壁 | 1人 | ナイロン製のクライミングロープ |
谷川岳宙吊り遺体収容 | 1960年9月19日 | 谷川岳 | 2人 | 滑落? |
北海道学芸大学函館分校山岳部 旭岳遭難事故 |
1962年 | |||
愛知大学山岳部薬師岳遭難事故 | 1963年1月 | 薬師岳 | 13人 | 遭難の原因は断定していない。 |
札内川十の沢北海道大学山岳部遭難事件 | 1965年3月14日 | 日高山脈 | 6人 | 雪崩 |
西穂高岳落雷遭難事故 | 1967年8月1日 | 西穂高岳 | 11人 | 落雷 |
福岡大学ワンダーフォーゲル部 ヒグマ事件 |
1970年7月 | 日高山脈 カムイエクウチカウシ山 |
3人 | 獣害(ヒグマ) |
富士山大量遭難事故 (1972年) | 1972年3月19日 | 富士山 | 18人死亡、 6人行方不明 |
低体温症や雪崩 |
富士山大規模落石事故 | 1980年8月14日 | 富士山 | 12人 | 落石 |
逗子開成高校八方尾根遭難事故 | 1980年12月 | 北安曇郡白馬村の八方尾根 | 6人 | 道に迷って水辺でのビバーク中、またはその以前の段階で死亡して川まで流されたとみられた。 |
SOS遭難事件 | 1989年7月 | 旭岳 | 1人 | 原因不明。1984年7月に登山中遭難し、1989年に発見。 |
立山中高年大量遭難事故 | 1989年10月8日 | 立山三山 | 8人 | 低体温症 |
吾妻連峰雪山遭難事故 | 1994年2月13日 | 吾妻連峰 | 5人 | 低体温症 |
安達太良山火山ガス遭難事故 | 1997年9月15日 | 安達太良山 | 4人 | 硫化水素中毒 |
トムラウシ山遭難事故 (2002年) | 2002年7月11日 | トムラウシ山 | 2人 | 低体温症 |
トムラウシ山遭難事故 | 2009年7月16日 | トムラウシ山 | 8人 | 悪天候、低体温症 |
2012年の白馬岳大量遭難事故 | 2012年5月4日 | 白馬岳 | 6人 | 低体温症 |
那須雪崩事故 | 2017年3月27日 | 那須温泉ファミリースキー場付近 | 8人 | 雪崩 |
参考:wikipedia
この一覧をみると、一度に複数人の死亡者を出した山岳遭難事故の原因は、「雪崩」や「悪天候」、「低体温症」などが多いことが分かります。
一方で、明らかな準備不足や判断ミスがベースにあった事例もいくつか確認すことができます。
過去最悪の遭難事故
上記の山岳遭難事故の中から1つ紹介します。
日本の近代登山史に残る遭難事故で過去最悪と言われるのは、「八甲田雪中行軍遭難事件」で死者数は199人です。
発生日:1902年1月24日
場所:八甲田山
死者数:199人
原因:天候不順、認識不足
背景:厳寒地での戦いとなる対ロシア戦に向けた準備のため、冬季訓練を行うこととなった。
遭難経緯:
1日目
午前6時55分に歩兵第5連隊210名は青森連隊駐屯地を出発。昼食時に天候が急変し、暴風雪の兆しがあらわれる。日没と猛吹雪により、やむなく隊は雪壕を掘り露営した。
2日目
午前2時頃、行軍の目的は達成されたとして帰営を決定、露営地を出発。午前3時半頃に鳴沢付近で峡谷(ゴルジュ)に迷い込んでしまい、遭難。崖を登って高地に出るも猛烈な暴風雨に晒され、多くの将兵が凍死した。
3日目
午前3時頃、隊は馬立場方面を目指して出発。この時点で死者・行方不明者合わせて70名を超えていた。隊は鳴沢の辺りまで一旦は辿り着いたものの、彷徨。凍死者が続出し、夜の時点で生存者は71名となった。
4日目
午前1時頃に将兵を呼集すると約30名にまで減っていた。青森連隊から60名の救助隊が出発するも、悪天候に阻まれるなどして捜索は難航。
その後
全ての雪中行軍隊を収容できたのは2月2日で、11日間も要した。
参考:wikipedia
原因については、気象条件や貧弱な装備、指揮系統の混乱、極端な情報不足、認識不足などが挙げられていますが、決定的なものは特定されていません。
おそらく様々な要因が複合的に合わさって、このような大きな遭難事故に発展したと考えられます。
遭難したのは青森歩兵第5連隊でしたが、実は同じときに雪中行軍をし、負傷のため中途で帰還した1名を除き全員が無事完遂した隊があります。
それが弘前歩兵第31連隊38名で、同様に山中で激しい風雪に悩まされたが、無事完遂できました。
弘前歩兵第31連隊が出発したのは1月20日で、青森歩兵第5連隊とは出発地点も異なるため、一概に比較はできませんが、しっかりした準備や山中の適切な判断により完遂できたと考えられています。
この遭難事故からは、情報や準備、判断がいかに重要かを学ぶことができます。
遭難体験について書かれた本
遭難体験について書かれた本を紹介していきます。
ドキュメント道迷い遭難
「令和3年における山岳遭難の概況」によると、遭難の原因として最も多いのが道迷いで、全体の41.5%にも上ります。
この本では、実際に道迷いにあった7つの事例が詳細に紹介されています。
遭難に至った経緯や遭難中の行動、救助に至るまでを追体験でき、その場にいるかのような臨場感を感じることができます。
これを読むと、遭難が他人事ではないことが実感できます。
著者の羽根田治氏は、遭難に関して多く執筆しており、同シリーズでは「ドキュメント単独行遭難」や「ドキュメント気象遭難 ヤマケイ文庫」、「ドキュメント滑落遭難 ヤマケイ文庫」、「ヤマケイ文庫 ドキュメント 生還―山岳遭難からの救出」などがあります。
十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕
こちらも羽根田治氏の著作。
戦前から最近までに起こった10の重大な山岳事故をピックアップし、検証した内容になります。
こちらは登山史に残る重大な山岳事故を一挙に知ることができる貴重な読み物です。
事故の内容はもちろん、なぜその事故が発生してしまったのかという考察も興味深いです。
本書では、戦前から最近の事故まで、10件の重大事故を検証する。
時代を反映した日本の遭難事故を、時系列に振り返る貴重な記録である。1章 1913年の「聖職の碑」木曽駒ヶ岳集団登山事故
2章 1930年の東京帝大の剱澤小屋雪崩事故
3章 1954年の富士山吉田大沢の大量雪崩事故
4章 1955年の前穂高東壁で起きたナイロンザイル切断事故
5章 1960年の谷川岳一ノ倉沢宙吊り事故
6章 1963年の薬師岳愛知大学大量遭難事故
7章 1967年の西穂独標で起きた高校生落雷遭難事故
8章 1989年の立山で起きた中高年初心者の大量遭難事故
9章 1994年の吾妻連峰スキー遭難事故
10章 2009年のトムラウシ山ツアー登山事故
引用:amazon
山と溪谷 雑誌
Amazon.co.jp: 山と溪谷 2023年 3月号[雑誌] eBook : 山と溪谷社=編: Kindleストア…
山と溪谷:2023年3月号 (発売日2023年02月15日)では「山と遭難」というテーマを扱っていたので紹介します。
最新の遭難事故ケーススタディとして、大峰山系で女性2人が9日間道迷い遭難した事例などが取り上げられています。
いまだ下山せず! (宝島SUGOI文庫)
天空に聳え立つ白い「槍」。その姿に魅せられて厳冬の北アルプスへ登った三人の男たちが行方不明に。猛吹雪の中、彼らはどこに消えたのか。聞き集めた他パーティの証言から三人の軌跡を追い、推理を重ねていく山仲間と家族は、苦悩のうちに、やがて大きな謎に直面する。三人は最も危険な“冬の沢”を下ったのか? ミステリアスな「事実」を積み上げて真実を追う、感動のヒューマン・ドキュメント。
引用:amazon
遭難関連の本で読んでみたい1冊です。
遭難で行方不明となった男性3人組と同じ山岳会に所属していた著者が、長期にわたって3人の軌跡を追い謎に迫っていく内容です。
道迷い遭難体験について書かれたブログ
道迷い遭難体験については、ネット上でもいくつか見ることができます。
ヤマレコに掲載されている「御池岳ゴロ谷での6日間」は、特によく情報が整理されており、遭難時の詳細がよく分かります。
位置情報も載っていて、同じ場所を周回しているのが確認できました。
週刊やましじみ:登山よもやま話のサイト 金糞岳遭難記 ~生きて帰りし物語~
リアルな遭難体験を知ることにより、遭難を自分事として捉え、準備することができます。
このような情報は、リスク管理を考える上で非常に重要な資料だと思います。
まとめ
今回は、過去にどのような遭難が起こったのかまとめてみました。
まとめに移ります。
・一方で、明らかな準備不足や判断ミスがベースにあった事例もいくつか確認できる。
・日本の近代登山史に残る遭難事故で、過去最悪の死者数を出したのは「八甲田雪中行軍遭難事件」。死者数は199人。原因は、気象条件や貧弱な装備、指揮系統の混乱、極端な情報不足、認識不足などが挙げられている。
・遭難体験について書かれた本でおすすめなのは、「ドキュメント道迷い遭難」。同シリーズの「ドキュメント単独行遭難」や「ドキュメント滑落遭難」などもおすすめ。
・リアルな遭難体験を知ることにより、遭難を自分事として捉え、準備することができる。